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『ファイア・ドーム』を読んで 辻村深月 著

  • 7月28日
  • 読了時間: 3分

まず思ったのは 人と人との間に生まれる、ごく小さな違和感の書き方がうまいということです。 ちょっとした仕草や、何気なく口から出た言葉。 その場では聞き流してしまいそうなことなのに、なぜか心のどこかに引っかかる。 表情や声の調子、言葉を選ぶまでのわずかな間、そこに含まれるためらいや無関心まで人は日頃感じ取っていますり そうした言葉になる前の感覚を、丁寧にすくい上げています。 また、人の傷つきやすさも上手に表現されています。 人が深く傷つくのは、必ずしも誰かから強い悪意を向けられたときだけではありません。 本人にとっては、かなりの痛みでも、周囲の人には、その重さが見えないことがよくあります。 悪気ない一言や、軽い気持ちで言った噂が、誰かを長い間苦しめることもあります。 そして厄介なのは、傷つけた側には、傷つけたという自覚がないこと。 私たちは自分に悪意がなければ、相手を傷つけていないと思いがちなところもあるのではないでしょうか。 悪意がなかったことと、相手が傷つかなかったことは、同じではないと私は考えます。 読んでいると、人の痛みを理解するために必要なのは、正しさを判断することよりも、まず、その人にはどのように見えていたのかを想像することなのだと気付かされます。 また、噂というものの恐ろしさについても考えさせられました。 噂をする一人ひとりには、誰かを追い詰めようという悪意はないのかもしれません。 しかし、小さな好奇心や無責任な言葉が集まると、それは一人の人間では止めることのできない大きなものになります。 誰かについて語っているだけのつもりが、いつの間にか、その人の人生を自分たちの娯楽にしてしまう。 私たちは噂の外側にいるのではなく、語った瞬間から、その一部になっているのだと思います。 物語の後半については、展開に少し無理があるようにも感じました。 ただ、物語を全体として見ると、さらに人と言うものに対して深く考えさせられる内容になっています。 人は合理性だけで動くものではないと考えています。 過去の傷、後悔、恐れ、愛情、そして自分でも説明できない思いに動かされるのではないでしょうか。 そう考えると、後半の展開も含めて、この作品は人間という矛盾した存在を描こうとしたのかもしれません。 人を理解するとは、ほんの少しその人の背景を想像してみることなのかもしれません。 事件の真相を追うということだけではなく、人と人との間に生まれる見えない傷と、私たち自身の無自覚さを上手く書いた物語だと私は思いました。



 
 
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