密やかな結晶 小川洋子著を、読んで
- 5月18日
- 読了時間: 2分
この物語では、ある島で、少しずつ何かが失われていきます。 物が消える。 記憶が消える。 それにまつわる感情も、だんだん薄くなっていく。 読みながら、不思議と私は「忘れること」を怖いとは思わなかった。 忘れることも必要なのだと思ったからです。 人は、大切なものを失っても、その痛みをずっと同じ強さで抱え続けることはできません。 時間が経つ。 少し薄れる。 少し慣れる。 そして、また今日を生きていく。 それは冷たいことではなく、心が自分を守るための働きなのだと思います。 忘れることで、心が安らかになることがある。 忘れることで、自分を許せることもある。 ただ、この物語には、失われたものを覚えている人も出てきます。 多くの人が忘れていく中で、「それは確かにあった」と覚えている人がいる。 私は、そこに大きな意味を感じました。 忘れることは、痛みをやわらげてくれる。 けれど、覚えていることは、自分の人生をつなぎとめてくれる。 大切なのは、過去のすべてを覚えていることではないのだと思います。 でも、自分が本気で向き合ったこと。 誰かを大切に思ったこと。 苦しかったけれど、逃げずに過ごした時間。 そういうものまで、なかったことにはしない、したくない 記憶は薄れても、その時間が自分の中に残してくれたものはある。 それは、心の奥にできる結晶のようなものかもしれません。 忘れることで、人は前に進める。 覚えていることで、自分を失わずにいられる。 この本は、失うことの悲しさだけではなく、忘れることの意味、覚えていることの意味を描いた物語だと思いました。

